Kaoriに包まれたい:20

第20話 『戻れない道』
私は香織さんの優しい微笑みを見ることで安心だった。
元に戻ることも必要……か。
確かに、それはあるかもしれない。
陽菜ちゃんと対立した時。
結局は元の関係に戻れて、
あれは、良かったことだったと思う。
……でも。
全部が、そうとは限らない気がする。
戻ることで、
何かを失うこともあるのかもしれない。
それが誰なのか。
自分なのか。
それとも――
私は、まだ分からなかった。
「香織さん、戻るって、急に決めるものなんですか?」
「……気づいた時には、そうなってることもあるわ」
「香織さん……」
「さ、帰りましょ」
私たちは香織さんの車に乗った。
そして車は静かに、発車し私の家へ向かった。
「智美、前にある山あるでしょ?私が最初、歩いた場所なの」
「遠いところなんですね」
「私の地元の駅、月見坂から行けるわ」
「じゃあ、毎週でも行けますね!」
「……」
「香織さん?」
今日の香織さん、やっぱり何かあったのかしら。
「智美、今のGW企画。結構、忙しくなりそうなの」
「それで、今日は元気がなかったんですね」
「そうね。それもあると思うわ」
香織さんも大変。
私もGWの企画の方、頑張らないといけない。
そんなことを考えつつ間もなく私の家に到着した。
「香織さん、今日はありがとうございました。このウエア大切にします」
「ありがとう。私もプレゼントした意味があるわ」
「それじゃ、また、会社の行き帰り楽しみにしてます」
私が車のドアを開け外に出ようとしたとき、香織さんが…
「待って!」
「香織さん、どうしました?」
「トレッキングは……」
「トレッキングがどうしました?」
香織さんはうつむきながら話しを続けた。
「智美、一人でも……歩ける?」
「え?歩けますよ。普通に」
香織さんの言葉が一瞬止まった。
「それは、私がいなくても……」
「え?」
「……なんでもない」
この時、私は松下君から聞いた異動の話を思い出した。
「香織さん。松下君、会社の異動の話をしてましたけど」
「そうらしいわね。今年度は、あるみたい」
「まさか、香織さんが……」
香織さんは、私を見つめ微笑んだ。
「大丈夫よ」
その言葉に私は安心した。
「じゃ、智美。元気でね」
「香織さんも、風邪ひかないでくださいね」
私は車を降り香織さんの車に手を振った。
トレッキングのウエアを抱きしめて。
車は静かに走り去っていった。
第五章 ― 静かな歪み ― 完
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